未踏の10秒台
Exif情報
メーカー名 Canon
機種名 EOS 70D
ソフトウェア Digital Photo Professional
レンズ 80-400mm
焦点距離 400mm
露出制御モード マニュアル
シャッタースピード 1/99sec.
絞り値 F11
露出補正値 +0.0
測光モード 分割測光
ISO感度 100
ホワイトバランス オート
フラッシュ なし
サイズ 2000x2501 (2,893KB)
撮影日時 2018-09-13 21:07:33 +0900

1   S9000   2019/7/24 21:40

 対抗リレーを疾走する高校生女子。部活を引退した3年生にとってはちょっと厳しいもの。それでもあっぱれな走りを見せ、声援を一心にあびる、の図。

 漫画話です。
 日本人男子の100m走9秒台は3人目が出ましたが、日本人女子の10秒台はまだ出ていませんね。
 男子の9.99secは、世界記録に対して+4.3%程度の開きであるのに対して、女子の10.99secは、+3.3%と、より厳しいと見ることもできます。(故ジョイナー選手の10.49secを異常値とみなして、ジーター選手の10.64secを世界記録とした場合の計算)

 日本人女子選手が、100m走で10秒台を記録する様子が描かれたのが、1983~87年に少年サンデーに連載された漫画「スプリンター」。作者は、「がんばれ元気」「あずみ」で有名な小山ゆう氏。

 この漫画は、万能の素質に恵まれた主人公男子が、最初は無邪気に100m走に挑むが、次第に周囲の人物ともども、狂気の世界に足を踏み入れていくもので、終盤は特に悲惨な描写が目立ち、ハッピーエンドでもないことから、人気を博した長編漫画でありながら、今日において語られることの少ない漫画です。
 劇中、主人公たちは疾走する中、「光のトンネルに包まれ、自分の周りの粒子ひとつぶひとつぶが感じられるような超感覚」を体験します。その超感覚のとりことなり、記録向上を図る中で、無月経症(女子)、走行中の失神による転倒で頭部を強打し廃人となる(男子)、脚部筋肉の崩壊(白人男子)といった、命そのものの危険に直面することになります。
 ヒロインの日本人女子選手は、10.88secと、現在の日本記録より0.33も速い、驚異的な記録を得ますが、これは無月経、骨密度の低下、顔相の変容といった、身体に異常をきたしながらのものでした。
 主人公(日本人男子)は、最後には黒人選手と世界記録を争うまでに成長するが、最終レースの勝敗をはっきりさせないまま、「あしたのジョー」に類した、生死も不明な状況で物語が完結します。

 こうした展開は、小山氏がボクシング漫画「がんばれ元気」で描いたものを陸上競技でリピートしたものと言えますが、「元気」では主人公は家族のもとに生還してハッピーエンドだった点が大きな違い。

「光のトンネル」の超感覚は、最初はアスリート特有の高揚感として描かれているのですが、物語が進むにつれ、生命の限界に直面した際の脳の自己防衛機能を示唆するものに変化していくもので、ここに小山氏の冴えが伺えます。

 この物語の完結から、実際に日本人男子が9秒台を記録するまで、実に30年を要し、今なお女子選手は10秒台に届いていませんが、私が生きているあと二十年かそこらの間には、達成されてほしいものです。

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