ガジェットとしての「幻の多角形コーナリング」
Exif情報
メーカー名 Canon
機種名 EOS 70D
ソフトウェア Digital Photo Professional
レンズ TAMRON SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2 A022
焦点距離 150mm
露出制御モード マニュアル
シャッタースピード 1/99sec.
絞り値 F6.4
露出補正値 +0.0
測光モード 分割測光
ISO感度 400
ホワイトバランス オート
フラッシュ なし
サイズ 3000x2000 (2.92MB)
撮影日時 2022-10-15 20:40:45 +0900

1   S9000   2023/3/27 08:07

 アート作品的な扱いとして展示されているポルシェ911カレラRS。いわゆる「ナナサンカレラ」。排気量は2.7リットルですが、ボディサイズは今日の5ナンバーサイズであり、驚くほどコンパクトに見えます。実質的な後継車であるポルシェ930ターボは、タイヤハウスの張り出しが大きくボリューミーになり、格段に迫力が増しています。

 さて、漫画バナシ。
「ガジェット」とは、今日の商品用語としては携帯電話やゲーム、デジタルカメラを含む「目新しい小型の電子機器」とされています。漫画においては「ストーリー展開上の重要な小道具、仕掛け」転じて広義には「ストーリー展開の根幹をなす、勝負や危機の打開、登場人物の出会いや運命に関わる必須の概念」となります。例えば、「ドラえもん」は未来の秘密道具全てがガジェットですが、ストーリー展開の根幹をなすガジェットは「タイムマシン」ということになります。
 カメラマンを主人公にする漫画では、死別した先輩や親兄弟の遺したカメラやレンズがガジェットになることも多く、この点、デジタルカメラは日常品としてのガジェットから抜け出ておらず、作中の小道具としてのガジェットになるには至っていません。
 「サーキットの狼」では、一番目につくガジェットは、このポルシェ911カレラRSのようなクルマですが、レーサーの出世物語でもあるため、主人公は次々にクルマを乗り換えてゆく必要があり、ルパン三世の13世石川五右衛門が使う名剣流れ星に相当する、一貫した愛機というのは設定しにくいものです。

 なお、レース漫画は「レースのステージが上がるほど漫画としては人気が落ちる」傾向がありますが、しげの秀一氏は代表作「頭文字D」において、「峠レースから一歩も進まない」とステージを固定させることで、この傾向を打破するとともに、主人公の愛車を終始一貫させることにも成功しています。
 「ストーリー展開の根幹をなす、勝負や危機の打開、登場人物の出会いや運命に関わる必須の概念」という広義のガジェットは、超能力や超科学も含まれます。最近逝去された松本零士氏が宇宙戦艦ヤマトのSF設定に用いた「波動エネルギー」もその最たるもので、主人公側にとって主たるエネルギーで最大の武器でもある一方、敵方も使うため、主人公側に危機をもたらす存在でもあります。スポーツ漫画では「巨人の星」の魔送球や超人的制球力がこれに近く、この場合は「現実にはありえないが、作中世界にあらかじめ仕込んでおくことで劇中の奇跡的な展開を楽に説明できるようになる」あるいは「現実世界と虚構世界を橋渡しする」魔法のアイテムになるわけです。
 「サーキットの狼」では、「幻の多角形コーナリング」などのコーナリングテクニックは、全くの虚構ではなく、現実に存在する概念を誇張することで少年漫画らしい勝負ガジェットに昇華させています。「多角形コーナリング」の元ネタは、AUTOSPORT1971
年3月号記事「超えたドライバーの極秘テクニックシリーズ第3弾~北野元の多角形コーナリング」と思われ、作者池沢氏は「サーキットの狼」続編で、この記事の挿絵写真を引用しています。池沢氏は、この多角形コーナリングを、「あしたのジョー」におけるトリプルクロスカウンターのような必殺技に位置づけることで、漫画家としての高い演出力を発揮しています。71年記事を読む限り、「多角形コーナリング」はどちらかというと遅い前走者を抜くためのラインどりの工夫のようです。さらに、慣性ドリフトその他の劇中のコーナリングテクニックは全く架空のものとは言えないにせよ、サーキットでレース用のグリップ力の高いタイヤでは「そんなテクニック使わないほうが速く走れる」ものだったようで、これも勝負を演出するガジェットだったと言えそうです。
 そこは池沢氏も理解していて、劇中で主人公のライバルに「ドリフトコーナリングで責め立てられても、結局はグリップ走行が勝つ」と言わしめてもいます。

 それにしても漫画は読み返し、元ネタとなる資料を探すことで何かと発見があるもので、そういう要素をたくさん含むのも、名作の条件かもしれません。このあたりは、宇宙戦艦ヤマトのSF設定に参画した豊田有恒氏も認識していたようで、まったくの架空ではなく、仕組みや名前に(ある程度でも)実在、既知のものを使うことで、読者・視聴者が後にそのことに気づいてくれ、作品をあらためて評価、記憶してくれる効果があると、自身の体験にも基づいて述べています。
 ただ、これは文学や映像、音楽その他、表現全般に言えるようで、本歌取りやモチーフ、引用が効果的であることの根本的原理のようでもあります。よって、写真表現においても適用できると思いますが、私は意図してその表現技法が使用できるわけでもなく、結果的にどうやらそのようなものになっていたようだ・・・というのが関の山、というところです。

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