無知
Exif情報
メーカー名 NIKON CORPORATION
機種名 D800
ソフトウェア Capture One 6 Windows
レンズ
焦点距離 24mm
露出制御モード ノーマルプログラム
シャッタースピード 1/100sec.
絞り値 F5.0
露出補正値 -0.3
測光モード 分割測光
ISO感度 800
ホワイトバランス
フラッシュ なし
サイズ 1367x2048 (2.38MB)
撮影日時 2015-12-30 01:39:01 +0900

1   kusanagi   2025/2/18 00:18

・・・・などと語った杏里さん。依存していた抗不安薬が抜けている時は、極めて知的で理路整然と話す
タイプだった。当時はキャバクラのナイトワーク以外の仕事はしていなかったが、高校在学中に習得した
エクセル検定など幾つかの資格もあって、施設退所後は事務職の派遣先でつつがなく契約延長をし、
新たに医療事務の資格習得にも鋭意取り組んでいた。結婚した夫からの2年半にわたる暴力で、メンタル
を破壊し尽されるまでは・・・・・。

 小銭の散らばる派手な音に振り向くと、ドラッグストアのレジ前で、床に両膝をついて小銭を拾い集め
ようとしている杏里さんの丸い背中が見えた。
 深夜に行った何度目かの聞き取り取材の終了後、夜間託児に預けた息子を迎えに行く前にその日の
食材を買ってしまいたい、と言う杏里さんと寄ったドラッグストアは早朝にもかかわらず客が多く、杏里さん
の背後にも何人か現場仕事らしき男たちがカゴいっぱいのおにぎりやカップラーメンを持って並ぶ。

 小銭を集めようとする杏里さんの手は何故か酷く拙く手際が悪く見えて、肩で息をして何やら言葉になら
ない呻き声も聞こえる。伏せた顔から鼻水が床に落ちるのを見て、彼女が激しく泣いているのが分かっ
た。 だが、後に待つ客や僕が小銭集めを手伝おうと駆け寄る前に、彼女は立ち上がるやいなや、少し
怯えた顔の店員の前に会計には多すぎる札を数枚叩きつけるように置くと、店から飛び出して行って
しまった。すれ違いざま、真っ赤になった杏里さんの鼻から、漫画みたいな鼻水が垂れるのが見えた。
 
 会計の終わった商品は、レジ前に置かれたままだ。急ぎ店員に知人であることを告げてお釣りをもら
い、手当たり次第に買い物した品を袋に詰め込み、僕も屋上の駐車場に駆け上がった。真夏の早朝の
薄闇の中、杏里さんは僕の車のそばで地べたに座り込み、放心したような顔で、手にした携帯の真っ黒な
画面を見ていた。

・・・・・・・・・・・・
正看護師の資格を持ちながらもやはり夫の暴力を主因とする、うつ失職から貧困に陥った女性の言葉
として…「お金の計算も私、できない。買い物に行くとレジに提示された数字を見るじゃないですか。
それを見てお財布からお金を出そうとすると、いくらだったか忘れる。もう一度見ても、お財布を見ると
忘れる。店員さんに数えてもらう。こんな私が、どんな仕事ができるかって…」

(著者は) 2015年脳梗塞を発症し、高次機能障害の診断を受けた僕は、まさしく前出の正看護師の
コメント通りの体験をすることとなった。病棟内の売店で僕は店員が口にした、そして目の前のレジスター
に表示されているたった3桁の支払額を財布から取り出すことができなかった。
店員が、788円です、と言う。だが手元の小銭入れに目を落とした瞬間、もう788円の数字が頭にない。
液晶表示で確認しても目を離した瞬間、もう788円の数字が頭にない。表示を再確認しても目を離した
瞬間に788は頭から消える。
ならば百円玉7枚から数えよう。小銭入れに集中し、百円玉を手にとっていく。だが今度は数枚数えた
時点で、自分がいま何枚の硬貨を数えたのか分からなくなる。何度もなんども数えては失敗し、振り出し
に戻った。
『貧困と脳』鈴木大介著 幻冬社新書 はしがきより

2   無知−2   2025/2/18 18:33

メチックチャクな投稿ですな。

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