錦帯橋晴天
説明無用の錦帯橋、山口県岩国市。 花火や鵜飼、水際のカップル、渡っていく老若男女とからめて、 とてもとても絵になる橋。 だけど漫画話です。他になんかありますか?(激) 漫画「島耕作」シリーズの主人公島耕作は、この岩国市出身と 設定されています。その実家は、錦帯橋の近くにある茶店兼土産物屋、だとか。(作者の弘兼憲史氏も岩国市出身) で、厳しいですが、シリーズ「島耕作」は、劣化する一方で、 どんどん面白くなくなっていってます。前にも書きましたが、作者 は、戯曲を得意とするタイプであって、ネタが尽きたのかも しれません。 そのせいか、「ヤング編」と称して、課長編より前の時代を描く ことに回帰し、ご自身の松下電器勤務時代の引き出しにネタを求めてらっしゃるようにも見えます。 その中で、ライバルであるソラー電機(SONYがモデル) の社員とインベーダーゲームを通じて知り合いになり、ウォークマンの試作機に触れて、その迫力に衝撃を受ける、という描写があり ます。 ウォークマンの開発経緯には、大きく2つの説があり、当時の SONYトップが「飛行機で出張するときに音楽を楽しみたいから、 携帯オーディオを作ってくれ」と指示し、それが商品化したという トップダウン説と、技術者が自分用に既存のテレコをステレオ再生 に改造していたものが目に留まり、トップの手元に届いていたく お気に入りとなり商品化した、というボトムアップ説とです。 SONY社は、トップダウン説を正史として紹介しており、弘兼氏 は劇中でボトムアップ説を採用し、当該技術者の生き方(ウォーク マン開発はすでに過去の業績であり新天地を求めてゲーム業界に 転職する)に島耕作が衝撃を受ける、という描写です。 話題性のある名作回、というものではないですが、この技術者の クールさと、島耕作のインベーダーゲーム狂いとの対比が 印象に残ります。残念なことに、「ヤング編」も、環境・公害問題を 語りつつ、心霊写真とか スカートめくりとかの、70年代事象を無理に盛り込んだ、 「タブロイド誌御用達」感にあふれており、漫画としての水準は 青年誌の中でも中の下、くらいです。 もともと「島耕作」シリーズは全体にそのくらいの出来栄えで あって、一部のスリリングな出世物語、スケベ描写サービスに サラリーマン層が喜んだ、「おっさーんの少女漫画」だと感じて います。うんうん。 さて、ウォークマンの出自について。 私は事実を知る立場にありませんが、トップダウン説には少し 懐疑的でした。なぜなら、ウォークマン開発の前のSONYには、 高音質ステレオ再生が可能なポータブルデッキ、「デンスケTC-D5」が存在し、SONY会長が求めたなら、そっちを先に提示して、 それが重いだ録音機能はいらないだ、とかそこをベースに話が進む だろうと思っていたからです。 (TC-D5は改良型のD5Mを私も愛用してました) ところが、そのあたりの話はちゃんとやっぱりあったらしくて、 井深会長はTC-D5も使ってみて、やっぱり重いや、プレスマンの ステレオ再生つきを作ってくれ、と依頼したのだとか。 https://www.sony.co.jp/SonyInfo/CorporateInfo/History/SonyHistory/2-05.html そうなると、正史のとおりにトップダウンだったのかも。ただ、 この話は、正史にありがちな、きれいすぎるようにも思います。 そんな風に考えるあたりから陰謀史観ってのは発生するのでしょうかね、あははは。 なお、ボトムアップ説は、SONY社の商品企画開発部門のリーダーだった黒木靖夫氏が著書「ウォークマンかく戦えり」でも主張 しています。 おそらく、会長さんがポータブルオーディオを欲しがったのも、 現場の技術者が自分で既存機材を改良して楽しんでいたのも、どち らも事実としては存在したのではないでしょうか。時系列はわから ないし、人の記憶はバイアスがかかるのであてにならないです。 ただし、黒木氏の著作において、重要な商品名に誤記があるなどして、私はその著作そのものにはあまり信用をおいてません。 ものづくりや人材育成の成功例において、「あれは私がやった」「彼を育てたのは僕だ」などなど、「自称功労者」が林立するのだそうです。 これに関して、先ほど紹介したSONY正史を読み進んでいくと、 CD規格の開発において、パートナーだったフィリップス社と、 「お互いに、あれをやったのはこちらだ、といった主張をしない、 貢献度合いはフィフティフィフティにしよう」と申し合わせた、 というエピソードが紹介されています。 これが忠実に守られているかどうかはわかりませんし、企業人と してそれでよいのか、という問題もありますが、まあとにかく、 正史としてきれいにまとめようとしているな、という印象です。 ちなみに、CDの録音時間規格を74分とすることについて、 SONYとフィリップスで論争があり、SONY側の主張が通ったのだ そうです。この企画はカラヤン氏が「ベートーベンの第九が入る だけの時間が必要だ」と主張したという説がありますが、第九を 珍重するのは日本だけだという説もあり、上記のSONY正史では カラヤン氏はここに介入していません。ただ、SONYの盛田会長 を訪問したカラヤン氏に、SONY技術者が(無許可で)録音した カラヤン氏が指揮する交響楽団の練習演奏をデジタル再生して聞か せたところ、カラヤン氏が録音を不問にするどころか、たいへん喜び、デジタル技術の開発をおおいに薦めた、というくだりがあり ます。 いろいろな物語がありますが、クルマの世界でも有名なエピソードが「それ、都市伝説だよ」と関係者が明かすようなこともある ので、夢を含めて眺めておくのがよいようです。 このあたりをうまくリアルにかつドリーミィに表現するのも 漫画家の腕前であり、時として写真でもそうかもしれません。私ゃよーやりませんが。