また、「人っ子一人いない白昼の大都会を撮影する」という勝負では、NDフィルターを使った長秒露光を想像するところですが、それだけでは信号待ちの人々が映りこんでしまうため、深夜に月明かりでさらに長いSSを稼いで完全に人のいない大都会を撮影することに成功しています。 (白とびしてしまう街灯やビル灯りは用意周到に消して回っている) その他おもしろいところでは、「飛行機恐怖症で海外ロケに行けない水着モデル」を使って、真冬の日本で「真夏の浜辺」を撮影するというくだりもありました。ここでは、競争相手がスタジオセットとスクリーンプロセスで真夏を再現したのに対し、主人公はスキー場でモデルといっしょに走って汗をかかせ、雪を白砂に見立てて爽快な汗に濡れるモデルを表情豊かに撮影し、クライアントを満足させ勝利する、という展開。 このようなシチュエーション設定や、フィルターやライティング、レンズワーク、リモート撮影や音センサーといった当時も今も変わらぬギミックが登場するため、この作品を現代のデジカメでリメイクすることも可能ですが、「最後まで映し終わったフィルムでさらにもう一カット撮影する」という奇抜なテクニック(トリック)は、フィルムならでは。 「スマイル」の後半は黒沢哲哉氏がストーリー担当となり、非現実的なカメラバトルに流れて行ったため、私も離れてしまいましたが、あらためて読み直すと、最終版では原点回帰して平凡な高校生に戻った主人公が、亡くなったお父さんの思い出を見つけ、母親の再婚を祝福するという、序盤からの伏線をきちんと回収して完結していることから、打ち切りのようなことはなかった様子です。 里見氏は、「スマイル」終了の翌年、愛英史氏の原作による「ゼロ THE MAN OF THE CREATION」に着手、これが全78巻に及ぶ長期人気作に成長し、キャリア・ハイとなった様子。